古尾谷さん
薬剤師(大森薬局)
長年にわたり医師として医療の第一線に立たれたと伺いましたが、院内における薬剤師の役割はどのように変化していますか?
薬剤師さんの重要性は、間違いなく高まっています。いてもらわないと、患者様に適正な医療を提供できなくなってしまうくらいですね。
当然ですが、医師としてミスは絶対に許されません。しかし現実として、ミスを完全に失くすことはとても難しいんですよね。その最たる分野がお薬です。医師は、患者様の症状に合わせて「このお薬をもらってください」と言います。ところが、患者様によっては複数の科から大量の処方せんが出されていることまでは把握できません。しかもその数や種類、服用のタイミングはまちまち。朝起きてどの薬を何錠飲むのか、服用は食前か食後か、それとも食間か。病状の変化によってお薬の種類も変わっていくわけですから、その管理は医師や看護師だけでは到底できません。だからこそお薬の専門家である薬剤師さんが必要なんです。
大学病院や公立病院にも籍を置かれていたご経験があると伺っていますが、病院の大小によって薬剤師との関係性は変わってくるものなのですか?
いわゆる地域病院である大田病院に来たのは十年近く前のことですから、今、大学病院や公立病院がどうなっているのかは正直分かりません。ただ、少なくとも私がいた頃は、薬剤師さんの顔や名前が一致するようなことはありませんでした。
今は、薬剤師さんの名前はおろか、趣味や性格までよく分かっています(笑)。当院に来てまず驚いたんですけど、入所した時期が同じ年の職員を、職種を問わず「同期」と呼ぶんですよね。医師、看護師、薬剤師、事務員も一切関係なく。だから私生活の付き合いも深く、とても仲が良いのです。大きい病院では、やはり医師は医師、薬剤師は薬剤師で固まり、横のつながりは希薄だったと思います。
お互いのことを深く知っていることで医療のカタチも変わりますか?
それはもう断然やりやすくなりましたね。お互いに立場の隔たりを感じていては、本当の意味でのチーム医療は実践できないと思います。
チーム医療と聞けば医師が一番上の立場だと思う方もいるかもしれませんね。しかし、それは間違いです。それぞれの役割が違うだけで、立場に上も下もないんです。私は治療を行う医師として、薬剤師さんは薬の専門家として、一人の患者様のために自分の役割を果たそうと努めます。ただ、時には思い込みによる誤解やミスが起こるかもしれません。そんなときに、お互いの足りない部分を指摘したり、フォローし合えるのが本来あるべきチームです。人間的なつながりを持っていないと、なかなかそのような理想のチームは築けないと思います。
薬剤師がチーム医療に貢献したという、具体的なエピソードがあればお聞かせください。
薬剤師さんには、ほぼ毎日のように助けられていますけど(笑)。
一つ例を挙げるとすると、心房細動という不整脈を患っている方がおられたんです。この病気を治療するためには、心臓にできた血栓を溶かさなくてはなりません。しかし、学術的にはまだ正解の定まっていない難解な症状。カンファレンスは、さまざまな意見が交わされた後、報告例を探すという結論で終わりました。文献の検索は、医師である私の仕事です。ところが翌日、ある薬剤師さんが「これだけの文献がありました」と資料をまとめて持って来てくれたのです。急いでコピーを取って医師間で共有しました。おかげさまで、その患者さんの治療はうまくいきました。
素晴らしい薬剤師だと思いましたね。チームのみんなの多忙な状況を察して、自分にできることを職種の枠を超えて実行してくれたのです。それはきっと、チームに貢献することが患者様のためになると考えてくださったからでしょうね。
調剤薬局との連携も盛んに行われているのですか?
ええ。特に城南医薬さんの薬剤師さんとはよく連絡を取り合っていますね。調剤薬局の皆さんには、特に在宅医療でご支援いただいています。
ご自宅で療養されている患者様に正確にお薬を飲んでいただくことは、とても難しいんですね。お薬をしっかり飲めないがために入退院を繰り返す方は決して少なくありませんから。これを解決するために、薬の一包化や在宅支援などさまざまな工夫をされておられることは、医師として本当に頭が下がります。
最後に、これから薬剤師として活躍される学生さんにメッセージをお願いします!
繰り返しになりますが、薬剤師の役割はこれからどんどん大きくなっていくでしょう。薬剤師は医師の部下でもなければ、薬剤の管理人でもありません。皆さんが、これからやっていくこと一つ一つが患者様の健康に影響します。逆を言えば、皆さんが手を抜いたらそれだけ患者様の健康が危うくなる。それだけ重い責任を伴う仕事なのです。
ですからぜひ、処方せんを見るのではなく、人を見る薬剤師になってください。自分がお渡しする薬が患者様の病状にどのように作用しているのか、もし薬が飲めないなら日々の暮らしにどのような問題があるのか。患者様とよく向き合って、自分ができることを見つけて実践する。そんな薬剤師になっていただきたいと思います。皆さんのご活躍に期待しています!